早く生まれすぎた天才、フェデリーコ2世

ナゾにあふれる稀代の名城カステル・デル・モンテを建てたフェデリーコ2世とは一体どのような人物だったのでしょうか?
当時の西ヨーロッパ世俗における最高支配者としてローマ教皇と長年にわたりしのぎを削り、近代的な中央集権体制の官僚機構を確立した政治をおこなった一方、ルネッサンスに先駆けること数百年、非凡な学識と文化芸術への好奇心を様々なかたちで具現化したほか、イスラム文化への関心や寛容な態度を示すなど近代的な見識を持ちあわせていたということで当時から今日まで高く評価されている魅力的な人物です。

Federico II

フェデリーコ2世は1194年、神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世(伊名:Enrico VI)とシチリア王国王女コスタンツァ(Costanza)の間に、イタリア中部の町イェージ(Jesi)にて生まれました。祖父は同じく神聖ローマ皇帝で「赤髭王(Barbarossa)」の異名をもつ英雄フリードリヒ1世(伊名:Federico I)であり、のちに皇帝となったフェデリーコ2世がドイツを顧みずイタリアに過剰なほど注力したのは、この偉大な祖父や父をもってしても成し遂げられなかった南北イタリア平定という大業への強い思いがあったのかもしれません。

幼くして両親を亡くしたフェデリーコ2世は、シチリア王国の首都パレルモにある王宮で育ちました。北はドイツ全土と仏ブルゴーニュ地方から、さらに北イタリアの諸都市そしてシチリアや現在のサレントも含む南イタリア全土という広大な領地を治める帝国の一大拠点として当時のパレルモには、イタリア、フランス、ドイツ、イギリスなどヨーロッパ各地から知識人や芸術家などさまざまな人材やモノが集まり、これにイスラム教徒によりもたらされたアラビア文化も融合し、フェデリーコ2世の治世において、数多くの分野でのちの時代に大きな影響を与える文化がさらに大きく花開きました。
文学においては、南仏の吟遊詩人たちがもたらしたプロバンス詩やアラビア詩の影響を受けた詩文が盛んとなった一方、のちにダンテが『神曲』で採用し、さらにのちの19世紀にイタリア語標準語の下地となるトスカーナ方言を使った詩を詠うなど、イタリア文学の形成にも少なからず貢献しています。
当時フェデリーコ2世の宮廷に集まった著名な知識人のなかには、中世最大の数学者レオナルド・フィボナッチや、のちにダンテの『神曲』をはじめとする文芸作品に”魔術師”として登場する占星術師のスコットランド人マイケル・スコットなどもいました。
異教徒とくにイスラム教徒に対し寛容で彼らを自らの宮廷や軍で重用し、さらに十字軍遠征の際にも敵軍の大将アル・カーミルと書簡でさかんに交流し意気投合、あげくの果てに聖地エルサレムを交渉で返還してもらい無血入城するという偉業まで成し遂げたのでした。
このような国際人としての素養は、パレルモの王宮で育った幼少の頃から培われたものだったでしょう。

キリン、ゾウ、チーターなど世界各地の珍獣を集めて飼育観察するなど、動物園の先駆けともいうべき活動もおこなわれていました。
彼が余暇に情熱を注いだ鷹狩りにおいては、『De Arte Venandi cum Avibus』という鷹狩りに関する情報を集めた世界初の書をみずから記し、これは同時代のモンゴル帝国宮廷にも献上され、その狩りや鷹の習性などへの造詣の深さが称賛されたほどでした。
通貨や税制を統一したり、貧しい民衆に無料で職業訓練や医療を施すなど、領民の啓蒙や生活水準向上にも努めた名君としても人々には記憶されています。
また1224年にはナポリ大学を創立し、これは世界最古の国立大学として現在でもイタリアの最も重要な最高学府のひとつとして、外国語研究などの分野において高水準の教育が行われていますが、大学の正式名称は「Università degli Studi di Napoli Federico II」と彼の名を冠しています。

さまざまな偉業を成し遂げてきたフェデリーコ2世でしたが、1250年秋に現在のプーリア州北部にあるルチェーラ郊外で鷹狩りに興じていたところ突如体調を崩しそのまま悪化させ、同年12月に同プーリア州サン・セヴェーロ近くにあった城(Castel Fiorentino)にて56才でこの世を去りました。その亡がらはサレント半島北部のターラント港(Taranto)からパレルモに海路運ばれ、彼の地にて手厚く葬られましたが、偉人のあっけない幕引きに彼の死を信じない人々も多く、不死伝説がまことしやかに流布したそうです。
同時代の人々から”Stupor Mundi(世界の驚異)” あるいは “Puer Apuliae(プーリアの申し子)”と呼ばれ、750年以上のちの世でも人々の敬愛を集めているのは、いかにフェデリーコ2世がサレントを含むプーリアの地に馴染みが深かったかを物語っています。

 

 

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